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宇都宮地方裁判所 昭和37年(カ)1号 判決

再審原告 中山与重

再審被告 星野正義

主文

本件再審の訴を却下する。

訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告訴訟代理人は原告星野正義被告中山与重間の宇都宮地方裁判所昭和三五年(ワ)第二七四号出資金返還請求事件につき同裁判所が昭和三六年四月二一日言渡した判決を取消す。再審被告(右事件の原告)の請求を棄却する。訴訟費用は全部再審被告の負担とするとの判決を求め、その原因として

原判決の主文は「被告(再審原告)は原告(再審被告)に対し金一三万円及び之に対する昭和三五年一二月一七日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払わなければならぬ。訴訟費用は被告の負担とする。この判決は仮に執行することができる。」というのである。しかして再審原告は右事件において第一回口頭弁論期日には適式の呼出を受けたが第二回口頭弁論期日以降は適式の呼出を受けない。すなわち再審原告は懲役九月に処する旨の刑事判決を受け昭和三六年四月一八日から同年一二月二六日までは前橋刑務所において服役中であつて右一二月二六日仮釈放により出所したものである。右服役前数年間は宇都宮市戸祭町一六〇一番地稲葉キン方に住所を有して居り、本籍地である再審原告の肩書住所地には数年来住所を有していなかつた。然るに再審被告及びその訴訟代理人は右事実を知りながら刑務所に宛て送達をせずに前記主文の判決を得て強制執行に着手している。再審原告は判決のあつたことを全く知らず前記日時に仮釈放により肩書住所地に帰り同月末頃に至つて自宅に判決正本のあつたのを発見して始めて判決のあつたことを知つた次第である。

右判決は不当に確定せしめられたのであつて、民事訴訟法第四二〇条の再審事由としてはいつていないといえ、本件の如きは同条の精神に鑑み再審事由と解すべきである。

仮に右判決が確定していなくても瑕疵ある判決としてかかる判決による強制執行を避けしめるために再審の対象と解すべきであると述べ、甲第一ないし第三号証を提出した。

再審被告訴訟代理人は再審の訴却下を申立て、本件再審の訴は不適法であると述べ甲号各証の成立を認めた。

理由

原告星野正義(再審被告)被告中山与重(再審原告)間当庁昭和三五年(ワ)第二七四号出資金返還事件の記録並びに成立に争いのない甲第一ないし第三号証を綜合すると次のような事実が認められる。

(一)  右事件の第一回口頭弁論期日は昭和三六年一月一七日午前一〇時第二回口頭弁論期日は同年二月二四日午前一〇時、第三回口頭弁論期日は同年三月三一日午後一時三〇分、第四回口頭弁論期日は同年四月二一日午後一時三〇分であつたこと、第一回ないし第三回の期日の呼出は当時の再審原告の住所であつた宇都宮市戸祭町一六〇一稲葉キン方において適法になされたこと(第三回の期日呼出状の送達せられたのは昭和三六年三月七日)右第三回の口頭弁論期日において弁論を終結したが、再審原告は第一回期日に出席、第二、三回期日には不出頭であつたこと。

(二)  第四回は判決言渡期日であつたが右期日の呼出状は不送達であつたこと、再審原告主張のような判決が前記第四回の期日に言渡されたが、右判決は当時再審原告の住所でなかつた肩書住所地において昭和三六年五月二八日送達を試みられ、家人が受取つたこと。

(三)  再審原告は懲役九月に処する旨の刑事判決を受け昭和三六年四月一八日から同年一二月二六日まで前橋刑務所において服役し右日時仮釈放により出所したがその間同所に判決の送達はなかつたこと。

(四)  昭和三六年一二月末頃再審原告は肩書本籍地において判決正本(甲第一号証)を発見し、始めて判決のあつたことを知つたこと。

以上のような事実関係である。よつてまず判決が確定したかどうかを考えて見るのに、昭和三六年五月二八日本籍地において試みられた送達は民事訴訟法第一六八条に違反し明かに無効である。次に同年一二月末頃判決正本を発見したときから二週間を経たときに確定するという見解があるかも知れないが、五月二八日形式的な送達があつた日から右正本発見までには七月を経過して居る。右の如く形式的送達のあつた日から七月も経過した後突然判決正本を発見して従前の送達は無効であるとして直ちに上訴手続を採ることを通常人に期待するのは酷に過ぎるというべく、右正本発見をもつて送達と解する見解には従い難い。(もし従えば判決は確定し、しかも再審事由とならないことは明白である)更に改めて送達し、その時から上訴期間が開始せられるものというべきである。

右の如き判決には上訴をもつて不服申立をなすべく、再審の申立のできないのは明かである。再審原告は判決が確定していなくても強制執行より免れしめるため再審事由ありと解すべきである旨主張するが強制執行に対しては異議申立の方法があるべく又判決そのものの取消を得るためには送達の有無に拘らず上訴の方法があるから(執行文の賦与せられている判決正本の再送達を書記官が直ちに実行するのは適当ではないといわなくてはならない)、かかる判決に対し再審を認める必要はないというべきである。

よつて本件再審の訴を不適法として却下すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内田初太郎)

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